前回の続きということで、アメコミnight! スペシャル イベントレポ後編をお送りします。

会場でもらったポストカード

石川裕人氏のアメコミ遍歴

「僕はニューヨークにあるこの病院で産まれたらしいです」 といきなり出生病院の写真の紹介で始まって会場に爆笑が起こりましたが、さすが200冊以上の邦訳アメコミを手がけただけあって石川氏の半生はそのまま80年代以降の日本のアメコミ史と連動するようで大変興味深いお話でした。

印象に残った部分をかいつまんで書いてみようと思います。
(メモを元に書き起こしていますが、時系列などきちんと把握できていないので間違っている部分があればご指摘ください)

アメコミ好きは遺伝子で決まる説

冒頭のニューヨークの出生病院の写真はこの伏線だったのかw
と言っても産まれたのはアメリカでだけど物心つく前に日本に帰国したので記憶には残ってないそうで。
ただ両親はアメリカで仕事をしていたので、アメリカ文化に対する親しみのようなものはそこで培われたのだろうと分析。

そして名言(?)「アメコミ好きは遺伝子で決まると思う

アメコミにハマる人はもう見た瞬間から何か感じるものがあるから、これは遺伝的なものなんじゃないかと。
そう言われると私自身も身に覚えがあるような。客席でも同感っぽい頷きや笑いがちらほら見られました。

アメコミとの出会いと同人誌活動

本格的にアメコミに出会ったのは中学生の頃、父から買い与えられたコミック版スター・ウォーズのリーフが最初。高校受験を控えていた石川氏は「これを読みたければ勉強しろ」と言われたとか。(私の両親は漫画全般に関心が薄いのでそういうサブカル色の強い家庭が羨ましい…)
そしてニール・アダムスが描いたJusticeSocietyとの出会いから、本格的にアメコミにハマっていき、自分で同人誌を作るまでになったそうです。

石川氏は月刊スーパーマン読者で作ったファンクラブアメコミ研究会C.L.A(ComicsLoversAssociation)の4代目会長。スライドでC.L.A.で出した同人誌の表紙画像が表示されてました。

アクションフィギュアの変遷

それ以前からアメコミフィギュアは出ていたけれど、89年公開のティム・バートン版映画『バットマン』のブームから質も上がりバリエーションも豊富になっていったとのこと。

映画公開時に出た、「ジョーカーの硫酸攻撃を防ぐ金色のバットスーツ」のフィギュアを見て、「映画には実際に登場しなくても、『出てきそうな』装備でバリエーションが展開できるんだなあ」とアクションフィギュアの新しい可能性を感じたそうです。

アメコミ入手経路の変遷

今のようにインターネットで手軽に個人輸入できなかった80年代の主なアメコミ入手経路は洋書専門店。明らかに米軍基地のゴミ捨て場から拾ってきたような泥水まみれの本が並んでる怪しい書店もあったとか…
やがてインターネットでの為替通販が増えて来るも、当時は一定額をプールしておかなくてはいけなかったり、何かと手間が多かった。その後クレジットカードでの通販が増えてくると、洋書専門店は減っていったということです。

プログラマーをやめて描いた初めての漫画が日米で出版

大学を出て一旦プログラマー職に就職しながら同人活動を続けるも、やりたいことはこれじゃないなーと感じ26歳で退職、フリーに。
その頃に描いたマンガ『THE MIGHTY BOMBSHELLS』が日米で出版され、「マンガ風の絵でアメコミ」というのがアメリカで大ウケし、後のMARVEL MANGAVERSEにも繋がったそうです。

株式会社ウィーヴに入社してからのアメコミ出版事業とメディアミックス

アメコミに関する活動を続けていたことがきっかけで株式会社ウィーヴに誘われ入社すると、様々なアメコミ出版やメディアミックスに関わっていきます。

ミュータント・タートルズのアニメをテレビ展開しヒットしたのをきっかけに、日本で独自のマンガ化を行い、これが大成功。一大ブームを巻き起こしました。
それに便乗して今度は日本版X-MENのマンガを展開するもこちらは失敗。
しかしX-MENを初邦訳するとこれがアニメとの相乗効果で大成功し、日本でのアメコミブームの先駆けになったそうです。

さらにメディアワークスからスポーンを出版すると、フィギュアと共に大ブレイク。これが発行部数において日本で一番ヒットしたアメコミになりました。
そしてスポーンの成功を足がかりに、ウォッチメンを出版。スポーンシリーズのライターの中にアラン・ムーアが居たので、「スポーンで人気のアラン・ムーアがこんなの描いてるんですよーこれは傑作だから出すべきですよ!」ってゴリ押ししたとか。

その後ジャイブからDCvsMAEVELを出版したりと、次々と邦訳アメコミを手がけていきました…が、石川氏曰く日本のアメコミ出版事業はだいたい2年単位で衰退する法則があるそうで…
なぜかといえば、2年経つと書店からの返品がどっと押し寄せ、やっていけないことに気づくからだそうです(´・ω・`)

そこで、コミックの出版が減っていったので持ち上がったのがアニメ化企画。
ビースト・ウォーズ吹き替え版の日本での放映、それが人気を得たものの26本で完結し続きが無かったため、日本で独自に製作したのがビースト・ウォーズ2。さらにトランスフォーマーのアニメ化など次々と人気シリーズを立ち上げて行きました。
その流れでウェブダイバーピチピチピッチダイガンダービューティフルジョーなどの日本アニメに繋がって行ったそうですが、すみませんこの辺はメモが追いつかなくてだいぶ曖昧です。

やがてヴィレッジブックスを立ち上げ、ロング・ハロウィーンなどを出版しますが、その傍らディアゴスティーニなどでお馴染みのいわゆるパートワーク方式の出版にも関わったそうです。
そこで学んだのが「長く売り続けるためには最初の1号に大々的な宣伝をかけないといけない」ということだそうで、しかしアメコミにはそれだけの投資はなかなかできない、なので今後も売り方については考えていかなくては、とのことでした。

余談として、パートワークでスヌーピーの企画を担当したために作者のシュルツ氏の生家を訪ねる機会があり、コミック・ストリップ(スヌーピーのような新聞に連載される漫画)作家がアメコミに興味があるのかどうかが気になって、本棚をじっくり見たけどアメコミは一冊もなかったというお話がありました。
やっぱり無いんですねアメコミ…

アメコミと日本のマンガの違い

石川氏の目からアメコミと日本のマンガの違いを比較して、日本人になぜアメコミが受け入れられにくいかを考察していました。

出版規模の違い

アメコミ2大出版社であるMARVELもDCも、あくまでもコミック専門の出版社。
日本のジャンプやマガジンの編集部は集英社や講談社という大きな出版社の一部門としてあるので、アメコミ業界とマンガ業界では大きな資本力の差がある。

生活習慣の違い

アメリカはとにかく広大。殆どの人が通勤には車を利用するので、日本人のように駅の売店で漫画雑誌を買って電車の中で読むような習慣がない。
そのためアメコミは趣味人が読むものという性質が強いのではないか。

ストーリーや演出の違い

日本のマンガは表情のクローズアップやモノローグの多用など、心情描写に力を入れている傾向を感じるが、アメコミは映画やドラマのように淡々と人物関係や事実関係を描いているように思う。

ヒーローのあり方の違い

アメコミにはスーパーマンなど素顔を晒しているヒーローが多いが、日本では仮面ライダーやウルトラマン以降、フルフェイスの仮面を被ったヒーローがスタンダード。
スーパーマンのエピソードで、スーパーマンが勝てなかった3人組のヴィランに、街の人間が武器をとって立ち向かうシーンがあったが、日本のヒーローでは見ない。
アメコミヒーローは基本的に「隣人」として描かれるが日本のヒーローは日常とは切り離されて描かれている感がある。

絵に対する許容度の違い

ヒーロー物のアメコミは写実的な劇画タッチが基本だが、日本のマンガではシリアスなストーリーでも頭身の低いデフォルメされた絵柄だったりと、絵に対する許容範囲が広い。
昔MARVELとの会議の席で3頭身のスパイダーマンを描いたら「スパイダーマンはこの年齢の時はヒーローとして目覚めてない」と言われ、びっくりした。
アメリカでは大人向けのシリアスなストーリーでデフォルメされたタッチというのが受け入れられにくい。
逆に日本でアメコミのタッチは広く受け入れられにくいが、ストリートファイターのブームと、ジム・リーなどの日本人ウケする画風によって受け入れられる下地が出来ていったのかも。

ちびキャラ化は最近のアメコミでは定番ネタになってる感もありますし、時代と共に変わっていった部分やサンプル範囲の違いもあると思うので、ここで挙げられたことが全てではないと思いますが、様々な切り口での比較がなされて面白かったです。

質問コーナー

ここから開演前に集めたアンケートを元に、いくつかピックアップされた質問に石川氏が答えるコーナーです。

Q.DCのリランチについてどう思う?

商売なんだなあ、と。すいませんどうせ仕事で読むので、最近のはあまりタイムリーに読んでないです。

Q.一番好きなヒーローは?

もちろんスーパーマン

Q.マーヴェル、DC、それぞれ最強だと思うのは誰?

各シリーズごとに、その主人公が最強だと思う。そもそもアメコミに「最強」という概念は合わない。
ドラゴンボールのような日本のバトル漫画は、キャラの強さを数値化して比べるような描き方であまり好きじゃない。
キャラクターの強さというのは単純比較できるものじゃないと思う。

Q.今後の出版予定は?

MARVELはアベンジャーズを引き続き出していきます。 具体的な予定はないが、個人的にNEW TEEN TITANSを出したいというのを強く思っている(!)。80年代に夢中になった思い入れの強い作品なので、これは是非やりたい。

NEW TEEN TITANSを出したい、ということについては杉山すぴ豊さんのブログでも語ってらしたんですね。
会場でもどよめきが上がっていましたが、私個人的にもアメコミにハマったきっかけのひとつがアニメティーン・タイタンズだったので、その原作であるNEW TEEN TITANSの邦訳は是非とも実現して欲しいところです…!

駆け足で質問コーナーが終わると、開演直後に紹介したプレゼントの抽選会が始まりました。
フィギュアとジム・リー画集の両方が当たった人なんかもいて羨ましい限り。
私も抽選券一枚しか持ってなかったけど運良くデッドマン・ウォーキングのサンプルDVDと手帳とパンフレットを頂きました(*´∀`*)

そんなこんなで大盛況の中終演したアメコミnightでした。
今回初めての参加だったのでドキドキしてましたが、期待以上に面白くて充実した内容でした。
次回もあったら是非また参加したいです。